先生にインタビュー!
1対1のレッスンでは、講師との相性も重要です。
インタビューを通して、レッスンの雰囲気や、講師の人柄に触れてみてください。
レッスンに懸ける思い(2016.7.5)
何気ないやり取りがレッスンの潤滑油に

「聞こえましたか(笑)?先程のレッスンでは、生徒さんと選曲の相談をしていました。候補の数曲の中で、生徒さんは表向きには「Bも良いけど、やっぱりAかな」と言っていたのですが、本当はBをやりたそう。私もチャレンジになるだろうと思い、Bを押していました。せっかく向上心が強いのに、無難な方を選んでしまうというのは、多くの生徒さんに共通することです。なかなか踏ん切りがつかないので、「では、Bは難しいので、今回はAにしましょう!」と言ったら、「え?それは悔しいな。じゃあ、Bにします!」と。それで大爆笑となったわけです(笑)。」
――なるほど(笑)。結果として、生徒の決断を後押しした形になりましたね。
「生徒さんがちょっとした緊張でカッコつけていたところから、自分をさらけ出してくれる時や、こっそり自分の胸の内を打ち明けてくれた時というのは、本当に嬉しいですし、心がほぐれる瞬間でもあるのです。こういうやり取りは、一見、レッスンとは直接関係の無いもののように見えますが、そうやって本音を引き出す過程がないと、歌はうまくなりません。一方通行ではなく、二人三脚でレッスンを進めていったときに、生徒さんの実力は飛躍的に伸びるのです。逆に、レッスンで私だけが笑っているというのは、まずい状況です(笑)。」
「もちろん、最初から自分のことを話せる人なんていません。恥ずかしいですから(笑)。なるべく笑いの多いレッスンを心がけているのは、単純に生徒さんが話しやすいムードを作るということもありますし、また、たとえ失敗したとしても、いい失敗だったら、笑って流すことができる。思い切りやって音を外した時には、笑って、「いいね!今の。もう一回行こう!」みたいなムードは大事にしています。「なんで間違えたのか」とか、傷口をえぐるような、そういうシリアスなレッスンはしません(笑)。」
音楽講師になったのは憧れから

「一番最初は、初めて習ったピアノの先生への憧れです。優しくて、自分を伸ばし、育ててくれる先生でした。得意なものを作ってくれたとも言えるかもしれません。「由季ちゃんはピアノが上手よ」と言ってくれた先生に憧れて、単純にその先生みたいになりたいと思ったのが、最初のきっかけなのです。保育園の卒業アルバムには、「将来はピアノの先生になりたい」と書いてあります。」
「そのあと、出会った小学校やお稽古ごとの先生など、「先生」と名の付くものの職業の人たちは、大好きな良い先生ばかりでした。先生運が本当に良かったのです。それで、先生という仕事、先生という名の付く職業に憧れるようになりました。今、思い返すと、自分の良いところを認めてくれる大人が、私の周りにたくさんいました。ピアノ、そろばん塾、ブラスバンド部・・・。教えることに情熱を注ぎ、いつも一生懸命な先生に出会ったことは、本当に運が良かったとしか言えません。単純にかっこいいと思いました。」
「大学を卒業する際に選択肢としてあったのは、ピアノ、リトミック、歌の3つでした。その中で、単純に自分が一番好きだったのが、歌だったのです。でも歌は、大学の学習過程の中では、学んだ時間が一番短かった。だからこそ、自分で意欲をもって学ぶことができたのだと思います。歌の心地良さを感じたこともありますし、なにより、自分が一番得意だと思えたのが歌でした。歌はお芝居の要素も絡んできますし、表現する幅が広く、とっても面白いと思います。」
生徒さんにとって身近な存在でありたい
――教室はどのような雰囲気なのでしょうか。また、どんな人が通っていますか?
「生徒さんは、面白い人が多いです!歌という共通点はありますが、普段のお仕事などは本当にバラバラで。私が一生かけても出会えなかった人ばかりで、音楽以外の面では、私が勉強をさせていただいているくらいです(笑)。また、この教室に集まる皆さんは、とっても前向きなのです。歌が得意だという人もいるし、歌が苦手だという理由で来ている人もいます。大人になってから、苦手を克服しようとしに来ている時点で前向きだと思いますが、失敗することもプラスになるんだと思っている人が多いこと自体、驚きです!そういう意味では、レッスンはとても楽です。後ろ向きな気持ちでは、できることが限られてしまいますから。」
――レッスンをしていて、大変だなと思うことはありますか?
「レッスンについては、「歌のレベル」と「大変さ」とは全く関係ありません。ですので、内容面で大変だと思うことは無いのですが、もしあえて大変だと思うところを挙げるならば、生徒さんと、本当の意味でのコミュニケーションを取れるようになるまでが大変です。生徒さんが私に対して気を遣わなくなるまでの時間が大変と言いますか、必要な時間なのですが、少し大変だと感じます。」
「歌声には、体や心の変化が影響します。月2回のレッスンでしか会えないから、その間に何が起きているか、歌へのモチベーションがどのように変わってきているのか、その日の体調はどうかとか、気に掛けるものが多くなります。ところが、生徒さんの持っている一般的な先生のイメージというのは、ストイックで甘えを許さないという感じのようで(笑)。お医者さんの問診のように身構えてしまって、レッスン開始当初は、あまり本当のことを言ってくれません。」
「ですから、まずは先生という人間が万能だと思われないように、普通の人間だというところから入ります。おなかもすくし、眠いこともあるし、息子がいうことを聞かなくて悩むこともあると(笑)。私自身は、生徒さんにとって身近な存在でありたいと考えています。人と人とのコミュニケーションを大事にしています。そして、一方的なレッスンではなく、双方向になるように心がけています。先ほども触れましたが、二人三脚で進めていった方が、楽しいですし、上達が早いので。」

「個人レッスンといえば、面白いのは、生徒さんの成長する姿、その瞬間を間近で見られることです。何が楽しいってそれですよ!生徒さんが歌に入っていってしまい、私がはじき出されることがあります。そうなったときは最高です!私のことを気にしないくらいに歌の世界に入っていき、不意に、私はひとりのお客さんになってしまう。そんな時は、レッスンであることを忘れてしまいます。」
「歌とその人がひとつになる。これが究極の状態です。楽しい!生まれた!歌が生まれた!その人から今生まれた!というような感覚。もちろん、頻繁にあるわけではありませんが、そんな日を思い浮かべながら、普段からコツコツと積み重ねていくのです。」
――最後に、このインタビューを読んでいる方々へメッセージをお願いします。
「過去、どれくらい歌に触れていたかは関係ありません。できるだけキャリアの長い人に来てほしいとか、声に対してコンプレックスを持っている人は来ないでほしいとか、そういう気持ちは一切ありません。どんな人でもウェルカムです!ただ、「自分の足で前へ進むんだ」という気持ちを持っている方に来ていただきたいと考えています。受け身の姿勢ではなく、自ら進んで取り組むことが上達へのカギとなるからです。そういう思いがあれば、私は労を惜しまず、全力でレッスンをしていきます。」
「単純に歌のある生活っていいじゃないですか。歌を楽しむ観点も併せてどんどん提供していきますので、ぜひ一緒に、歌の楽しさを味わいましょう!楽しい時、悲しい時、人を励ますときに、いつも歌がある。歌があったらいいなと思う。そういう良さを、過去、たくさんの先生から教えていただきましたし、私自身も、それを伝えていきたいと思っています。元気でかわいい先生がお待ちしています(笑)。」
――本日は、どうもありがとうございました。
テーマ別レッスン講座開設!(2018.1.11)
講座第1弾の成果が出てきました!

「「自分から受講したい」と言った人に対しても、私が「受けたらどうですか」と勧めた人に対しても、共通して望んでいたのは、歌を歌う上で、「細かい部分へ気を遣うようになってほしい」、「細かい部分に表現をつけられるようになってほしい」ということでした。高い声が出る、声が大きい、声が長く続く。これらも必要な要素ですが、それだけで「歌がうまい、うまくない」というような、表面的なところでしか歌を楽しめていない人に、歌の魅力や、歌がうまいとはこういうことだということを知ってほしいという思いがありました。全3回または6回の講座受講後は、とにかくみんな、耳が良くなりました!」
――耳が良くなったとは、どういうことでしょうか?
「(歌の中で)「どうしてこの部分を聴き逃していたのだろう」、「今までなぜ聴こえなかったのだろう」というようなことを、みんな、口を揃えて言うんです。歌の本当に隅々まで意識して聴き取れるようになったことで、「「歌」ってこんなに繊細にできていたのだ」と知った人もいますし、「そんな表現の仕方があるんだ。びっくり!じゃあ、やってみよう!」という人もいました。また、「こんなに繊細に歌い分けているプロってすごい!」という感想がある一方、「今まで何を聴いていたのだろう(涙)。」と愕然としている人もいました。」
「歌を聴くうえではいろいろな観点があるのですが、今までは、メロディ、リズム、強弱くらいまでしか聴き取れていなかったということなのだと思います。例えば、分かりやすい例で言うと、ロングトーンだったら、クレシェンドしながらなのか、デクレッシェンドなのか、均一に伸ばすのかといったように、いくつかの種類があります。でも、今までは単なるロングトーンとしてしか聴こえていなかった。「何をやったら」だけでなく、「どのように使ったら」、この歌がより良く聴こえるのか。そういう発想になっていきました。」
――細かく繊細に聴けるようになったので、それを歌に活かせるようになったということですね。たしかに、聴こえていなければ、その違いを表現することもできません(笑)。
「聴こえたら、それをやってみよう、やってみたい!となるんです。」
受講を機に、上達のスピードが加速する
「その後の様子は大変よろしいです(笑)。まず、耳が敏感になっているから、オリジナルの歌と自分の歌との違いが分かります。今までは「高い音が出たか」、「音を外さなかったか」、「リズムがあっていたか」というような内容でしか自己評価できなかった人が、「細部まで表現できたか」とか、「思っていることを表現できたか」という基準で評価ができるようになってきました。その結果、歌を学ぶこと、表現することがどんどんと面白くなっていくんですね。また、「もっとこういうことを表現してみたいのですが」、「こういう歌い方はどうですか」という具体的な提案がどんどんと出てくるようになり、一段階深いところでの表現の追求ができるようになりました。こうなると、「歌えた」ということの満足度が、まるで違うと思います。レッスンも進めやすいですし、私もものすごく楽しいです。」

「お尻が決まっていること、つまり、いつまでに何をするというゴールが決まっていることです。課題を定め、それ以外のことはやらないので、集中して取り組むことができます。また、同じ観点で同じ動作を繰り返すので、やはり、感覚がより敏感になります。」
「通常は、「あなたの進捗に合わせて、様子を見ながら進めていきましょう」という形でレッスンをしています。こうしたレッスンの良さもありますが、ある程度、「歌を歌うとはどういうことか」、「レッスンとはどういうものか」がわかってきたら、時間を区切り、ここまではやると決めて進めると非常に効果的です。夏期講習などで短期集中で取り組むと、実力がグンと伸びるのと一緒ですね。」
講座第2弾、間もなく開設!
「全員です(笑)。「歌を歌うとはどういうことか」を知るのが、最初の1年です。「自分でどうやって歌いたいかを考えていく」のが、次の一年。地固めをした状態でスタートしたほうが身につくものが大きいと思います。」
「「歌」って複雑だなと思っている人は、ぜひ受講していただきたいと思っています。あれもやって、これもやって、がんじがらめになってしまうと思っている人。講座を受講すると、考え方がすごくシンプルになります。歌う際の表現の方法がたくさんあるだけで、捉える観点を整理すれば、極めてシンプルに捉えることができるようになります。」
――現在、第2弾を準備中と聞きました。どのような講座か教えていただけますか。
「「音楽に乗る」ということをテーマにしたいと思っています!日本人って、音楽に乗ることを恥ずかしいと感じる人が非常に多いように思います。音楽は楽しむものだと、頭ではわかっているけれど、実際に「乗る」ということを実感している人は、少ない気がします。やり方はいろいろとありますが、「音楽」と「自分の体と心」が一緒になる瞬間が必要だと思っています。歌う時にも、音楽を聴くときにも、(やれば良いと分かっていても)恥ずかしいとか、うまくできなさそうとかいう思いを抱きながらで、棒立ちで聴いている人!いるでしょう!音楽に乗るとはどういうことなのか、音楽に身を委ねるとは何か、体で感じるとはどういうことか。そのような講座を考えています。音楽に乗れたら、相当楽しくなりますよ!」
「決してダンスレッスンをするということではありませんので、ご安心を(笑)。念のため。」
音楽をより身近に!

「これは私が感じていることではありますが、「自分自身」と「音楽」が離れている人が多いように思います。距離感があると言いますか、「別物」として捉えているというイメージです。自分の外に音楽というものがあり、外からの視点で、ああでもない、こうでもないと音楽に対して働きかけをするような。」
「「うまくなったな」と思う人って、自分の「内側」から音楽が出てくる人です。考えてみれば、歌は「自分自身が楽器」で「自分自身が演奏者」という不思議で特殊なジャンルです。「どうしたらうまく歌えるか」は、「どうやったら自分の中から音楽が生まれてくるのか」ということだと思います。「遠くにあるもの」をどうにかしようとするのではなく、どうしたら自分の中から「思い」や「感情」が声として出てくるのか。そういう観点で考えたり、試したりしてほしいと思っています。」
「本気」で変わる、大人の習い事の形(2018.1.25)
「大人だって、成長したい」。心の奥底に眠る、そんな気持ちを大切にしたい。

――教室を開いて10年近くになりますが、開校当初のレッスンと、今現在のレッスンとでは、何か違うことはありますか。
「昔は生徒さんに「やりたい曲」を選んでもらっていました。自分に提案する力が無かったというのもそうですし、教える側のエゴでもあり、媚でもあったと思うのですが、生徒が好きな歌を歌っている時が、一番幸せだろうと思っていました。その人のレベルとか、音域とか、課題とか、そういうことはあまり考えずに、とにかく好きな歌を歌ってもらう。そういうレッスンをしていました。」
「今も生徒さんに選んでもらうこともありますが、そういう時には必ず、レッスンを通して「何を身につけたいか」ということを先に決めて、「歌を選ぶことも一つの課題」だという位置づけで、曲を選んできてもらいます。そして、探すという「過程」が大事なので、一曲ではなく、複数の曲を提案してもらうようにしています。私が選曲をする時は、その人と課題を共有したうえで選びます。そこがまず、大きな違いだと思います。」
「あとは、客観的に自分の声と向き合ってもらうという機会が、断然増えたと思います。あらゆる手段で向き合ってもらいます(笑)。人前に出ることだったり、レコーディングをすることだったり。録音してみるというだけでなく、粗い状態で一回録って、そこから課題をクリアする練習をし、最後にもう一回録る。それを聴いて、次の課題を見つける。記念受験ならぬ、記念レコーディングということは一切やっていません(笑)。」
「端的にいうと、「自分で考えてもらうこと」が多くなったということです。生徒さん自身に考えてもらう。一緒に課題を見つける、一緒に答えを見つける。その中で、主体性をどちらが持つかということは、かなり変わりました。」
――ただ、そうなると、初心者とか、レッスンを受講する動機の浅い人は、ついていけなくないですか?
「逆だと思います。課題を見つけるという作業は、次の一手を探すということです。次の一手というのは、「遠い先のことを考えましょう」ということではありません。生徒さんが、遠い先の目標しか立てられない人だったら、そこに到達するまでのステップを細分化するのが私の仕事です。特に初心者の人って、どういうステップでうまくなっていくかを知りません。また、すごい遠くの目標が、近い目標だと思っている人が沢山います。」
「例えば、カラオケデビューをしたいという人がいたとして、今まで一度も人前で歌ったことが無い人と、歌う事は好きだが、歌いたい曲がわからないという人とでは、次の一手が全く違います。しかし目標として、「カラオケデビューしたい」という文言は一緒。その人なりの状況を、私がしっかりと見極めて、間のステップを細分化する必要があります。「今の状況で、あなたに必要なのはこれですよ」という次の一手を提案するのが、私の仕事です。それは、どんなキャリアの人であっても、誰に対しても、やることは変わりません。」
――なるほど。でも、遠い目標だとわかってしまうと、やる気がしぼんでしまったり、モチベーションが持続しないように思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか。
「難しい問題です。まずは時間を区切るということ。いつまでにこれができるようになるというように。」
――目標を立てるということですか?
「そうですね。遠いと感じるのは、「時間が長い」ということではなく、「いつ終わるか、わからない」ということだと思います。昔は、夢を見させることが先生の仕事だと思っていました。「大丈夫、あなたならきっとできるよ」と。心を推してあげることが、先生の大切な役割だという思いは今も変わりませんが、夢を見させるということは、すごく酷なことです。場合によっては、嘘をついているということになりかねません。その人を傷つける必要はありませんが、現実はしっかりと伝えないといけません。」
「音域が極端に狭い人には、「歌える歌(選択肢)は少ない」、あるいは、「今の段階では、この歌は歌えない」ということはしっかりと伝えます。しかし、それは絶望ではなく、「もし、あなたが練習して、あと2つ音域が広がったら、歌える歌が格段に増えます!」と、具体的に伝えます。アバウトな言葉で夢を見させることは、生徒さんのために良くないと思います。特に初心者には。その代わりというわけではないですが、あなたにはきれいな響きがあるとか、音程を取る力があるとか、感情を読み取る力があるとか、本人が自覚していない長所を見つけ、しっかりと伝えることが大切です。そして、時間を区切って、「今、あなたに必要なのはこれ」と明確に伝えることが大事です。「私もできると思ってやっているから、あなたもできると思って頑張ってね」ということを伝えます。」
――「この先生の言うことなら信じられる」という関係を作る第一歩ということでしょうか?
「結果として、そうなったら良いと思いますが、大人の場合は、「信頼」というよりも、「安心」がキーワードだと思います。」
――安心とは、何でしょうか?
「レッスンは基本的に弱点を指摘されるものだから、そういうものだとわかっていても、「恥ずかしい」とか、「ボロを見せたくない」とか、「うまいと言われたい」とか、キャリアが浅い人ほど、そういう面での殻が固い(=指摘を受け入れられない)んです。そういう殻を一個一個外してもらうためには、この先生は自分のことは馬鹿にしないとか、この先生の前でなら失敗することにも意味がある、受け止めてくれると思ってもらうことが大事です。そのために、怖がられない、安心してもらえるような雰囲気作りをしています。」
「失敗することの気まずさ、恥ずかしさが無くなると、その先に、今度は意欲が表に出てくるようになります。生徒さん側からしたら、「こんなことを先生に要望しても良いのか」というようなことを言えるようになってきます。それが信頼関係。定義なんて知りませんけどね(笑)。横並びで肩を組んでいる感じ。感極まったときに、先生とハグできちゃう感覚でしょうか(笑)。」
――そうやって、ひとつひとつ丹念に、安心、信頼を作っていくと。傍から見ると「劇的ビフォーアフター」のように、何かをきっかけにして大きく変わるように見えますが、実際の過程については、全く劇的でないということですね。
「そのとおりです。モチベーションを保つという意味では、1個課題をクリアしたら、自分が「何ができるようになったか」を振り返ることが大切です。発表会の後に反省会があるのと同じですが、「こんなことを、できなかったのにできるようになった」と、「自分で」認識をする。「先生に褒められた」=「できるようになった」というのではなく、自分でできるようになったとわかること。認めること。ここが大事なのです。」
――できることがどんどんと増えていく喜び。それに繋がるわけですね。
「モチベーションが無くなるというのは、飽きてしまうことだと思います。飽きてしまうのは、同じことを単純に繰り返している時とか、前に進んでいる感じがしない時。「できた、できた」と実感していけば、飽きることはありません。飽きない限り、いくらでも深く進んでいける。そのための目標決めであり、アプローチなんです。」
「できることが増えていくと、今度は、いろいろなことに興味がわくという好循環も生まれます。ハマっている人って、そういう状態ですよね(笑)。もうやりたいことがいっぱいあって、これもできるようになりたい、あれもできるようになりたいと。」
――なるほど。「真剣にやりましょう」、「本気でやりましょう」ということを直に伝えるのではなく、1個1個課題をクリアし、前に進んでいくことで、次第に本気になり、真剣になるということですね。たしかに、大人に対して、「本気で練習してください」と促して、「じゃあ、本気で練習します!」とはならないですものね(笑)。
変わっていく、「先生」と「生徒さん」との関係

「私たちの教室では、半年をかけて発表会の準備をするのですが、ある生徒さんが、発表会が終わった後に、歌い込んでいた半年間から日常に戻り、解放というよりは、逆に物足りなくなってしまい、「課題が欲しいんだ」、「目標が欲しいんだ」と。それで、「この先にやる数曲は、全部暗譜(=楽譜を見ないで歌えるようにすること)してきます。」といって、本当に暗譜をしてきたことがありました(笑)。」
「なぜ暗譜だと言ったら、「暗譜は「最低限のライン」だと気づいた。その先にやりたいことがいっぱいあるから(暗譜に時間をかけるのがもったいない)、まずはできるところまでやってきます。」と。なんでしょうね、この湧き出るようなモチベーションは(笑)。」
――その方は最初、どんな方だったのでしょうか?
「入会の動機としては、「カラオケで歌える歌が欲しい」ということでした。目的としては、ごく一般的です。レッスンでも、「それ、カラオケでウケますか?」という発言をしていて(苦笑)。」
――そういう方がどうやって、歌や、歌うこと自体に興味を持っていったのでしょうか。
「まず大きかったのは、レコーディングです。それから、腰を据えてやった4か月間のリズム練習。これはかなり効果がありました。」
「レコーディングでは、例えば、生徒さん自身は「課題をクリアできている」と思っていて、むしろ、「なぜ先生は何回も同じことをさせるんだ」くらいに感じているものが、実際は「全然できていない」と、わかってしまうことがあります。「あれー??」と(笑)。」
「そんな時、その生徒さんのすごかったところは、自分にうそをつかなかったということだと思います。自分のできていないところを素直に認めたのは、私の力ではありません。その方の性格の良さと言いますか。自分の現状を正しく把握することをきっかけにして視野が広がるということは、頻繁にありますね。」
「レコーディングをすると、やりたいこと、できていないことが、一度にたくさん見つかってしまいます。課題が多すぎて、一回ゴチャっとなるので、下手すると自暴自棄になります。今までの練習は何だったのかとか(苦笑)。その時に、課題が見つかることはダメなことではないと、私が冷静に対処しないといけません。むしろ、「おめでたい、嬉しいね」、「あなたはもっとうまくなりますよ」と。」
「ただ、「課題を細分化する」と最初に言いましたが、それだけでは駄目で、その作業はいずれ私から生徒へとバトンタッチしていく作業なのだと思います。それができるようになるタイミングが、生徒が本気になる、飽きなくなるというタイミングです。」
――つまり、教えるという作業から、サポートする、自立を促すという風に変わっていくということでしょうか。
「そうですね。前で引っ張っていた私が、横や後ろに回るというようなイメージです。」
――先生と生徒の関係がだんだんと変化していくと。
「生徒さんが1人で歩いているのを、後ろから黙ってついていって、生徒さんがこちらを振り向くまでは何も言わないという。こないだテレビ番組でやっていた「初めてのお使い」ではないですが(笑)、自らの足で進んでいくようになります。」
――年齢や性別に傾向はありますか。
「関係無いと思いますね。日本における子供のレッスンは、先生が前に立ち過ぎだと思います。必ずそうしなければならないということではないのに、「早く成果を挙げて、(子を習わせている)親に安心してほしい」、「だから辞めないでくださいね」という風になってしまっている。でも本来的にはレッスンって、最初は先生が前、その先もずっと前ではなくて、その生徒さんを前に送り出して、自分が後ろから見守ったり、答えを求めた時にだけ、応えられる状況の方が良いと思っています。そうなると、先生側としても楽しい。手取り足取りの子が、いつまでも歩けなかったら不安になってしまうのと同じです。」
――今後、どういう人を育てていきたいと思っていますか。
「自分で歌うことの楽しみを見つけたり、深さ、広さを味わったりできる人がたくさん増えたら良いなと思います。心から音楽を楽しむって、そういうことですよね。」
「振り返った時に、自分の課題や疑問点を馬鹿にしないで聞いてくれるという安心感のために私がいる、という状態になったら良いと思います。「先生がいないとできません!」というのは全然嬉しくない。とんでもないことです(笑)。」
――この教室に通うと、どんな未来が待っているのでしょうか。
「技術の習得はもちろん必要ですが、この教室に来ることで「心が動くこと」が増えると思います。感じたり、考えたり、予期せぬことが起きたり、軽いショックを受けたり、それを刺激と言ってしまったら単純ですが。」
「生徒さんを見ていると、普段使っていない、眠っている心や感情が動いているのだと思います。それが日常に、還元、循環して、ワクワクする。そしてまた、ここに来て、新たな発見をし、トライアンドエラーをする喜び。生きているという実感。それがこの教室に通う醍醐味だと思います!」

基礎と応用を、滑らかにつなぐ取り組み(2023.2.22)
コツをつかんで早くうまくなりたい生徒さんと、基礎からしっかりと身につけてほしいと考える先生。特に大人向けのレッスンでは、足並みをそろえるのは容易ではありません。幸せなレッスンの形はどこにあるのでしょうか。
ひとつしか無いルートが塞がると、登れなくなってしまう。

「基礎と応用で言うと、みんな、基礎から始めると思っています。中にはコツコツ、最初からきっちりやる人もいます。でも私は、基礎を 1割、 2割とやったら、わりとすぐに応用に飛びます。みんな基礎が大事だということを、「体」ではわかっていません。「頭」ではわかっているけれど。」
――「体」では、わかっていない?
「そうです。理解ではなく「実感」として、基礎が大事だとわかっている人は、本当にひと握りしかいません。基礎練習全体の 2割くらいやった時点で、「大体基礎は終わりだろう」と多くの人が思っています (笑 )。」
「「まだ基礎練習が残っているの?」という生徒の思いを感じ取った瞬間に、応用に飛ぶのです。飛んでみる。そうすると、「基礎を使って歌える」と思っていたのに、全くうまく歌えない・・・。でも、それに気づけたら、次は「基礎の 3合目」に行けます。また「飽きてきた」と思う頃に応用に行って、次は 5合目くらいに到達して・・・。行きつつ、戻りつつ、の繰り返し。「基礎を全部やってから応用」という順番ではありません。」
――なるほど。どういう経緯で、そういった方法にたどり着いたのでしょうか?
「この仕事を始めたときは、「基礎やってからでしょ」と思っていました。ピアノで体験してきた世界がそうだったからです。勝手に飛んではいけない。バイエルやったら次はこれ、ツェルニーやったら、次はこれができます、とか。これが終わらないと、次には行けない。そういう世界でした。基本的には「耐えること」がレッスンの流れだと学んできたし、そういうものに全く意味が無いとは思いません。けれど、子どもはピアノのレッスン回数も多いし、進度が速いから良いものの、大人のレッスンって、多くの人は月 2回程度です。ずっと基礎をやっていたら、もうなんか、終わらないというか (笑 )。」
――そうですね (笑 )。
「かつては私ももちろん、そういうスタイルしかないと思っていたから、そのようにやっていました。それが「生徒のため」だと思っていましたし。そうすれば、 1回 1回やる課題は決まっている、道が決まっているということになります。 1番ができたから、 2番。できたから、次は 3に行きたいでしょ。「そのように、生徒も思っている」と思っていました。けど、生徒からしてみたら、「 3が終わったのに、まだ4もあるのかよ」と (笑 )。」
「音大を目指すとかではなく、自分の生きがいとか、もっと漠然としたものを目指してレッスンに来ている人にとってみたら、なかなかしんどい。一方、私の方も、「なぜ私はこんなに一生懸命やっているのに、生徒が離れていくんだろう」って。 2が終わったのに、なぜ 3に行きたくないのか。最初は理解ができませんでした。」
「でも、よくよく考えてみると、本当は、同じことなのだと思います。自分(=生徒)が必要になったら、次の練習をやる。それは、どちらも変わりません。大人の生徒は、(子どもの生徒と違って)強制力が働かないし、いつでも好きな時に辞められる。そういう背景もあって、私は、より生徒の感覚に寄り添うレッスンになったということだと思います。」
「基礎からコツコツやっていくことも、基礎・応用を行き来することも、根本的に、やっていることは一緒。必ずしも、前者のやり方だけが正解ではありませんでした。いろいろなタイプの人が訪れる生々しい現場を、講師という立場で引っ張っていくとなった時に、初めて、「一つのやり方だけではできない」と、それこそ私が痛みを持って知りました。」

「そうそう、「どんな練習方法が好きか」は人によって異なります。それに、技術さえ渡せば受け取ってもらえるかというと、そうではありません。レッスンだけでなく、日常の中の何気無い会話でも、この人は何に喜びを感じるのか、どんなときに熱狂して喜んでいるのか。それを知りたいのです、いつも。」
「「(方法を)私に合わせてください」というのは、言い換えると、「やり方を一個しか持っていない先生」ということになりかねません。「型にはめられている」と生徒側が思ったときに、嫌気がさすというか、抜け出したくなるというか、無理強いをさせられている感覚になるというか。そこにレッスンに臨むうえでの感覚の齟齬が生まれます。」
「上達のビジョンに行き違いが生じてしまわないよう、なるべく、私もいろいろな回り道の仕方を持っておきたいなぁと思います。あなたは山道一直線コース、獣道コース、湖を周遊してからコースとか、途中までロープウェーで行く人とか (笑 )。ちょっと例が極端ではありますが、そういう、先生側が、「やり方は一つではない」と心の底から思えているかどうかが、重要な気がします。「どっちが正解なのですか」と言うけれど、「どっちも正解」ということが多いのですよ。」
――最後にひと言、お願いします。

